ウイスキー入門 第2回:製造工程を深掘り – ピート、樽、熟成環境でこう変わる!
2025/02/08

前回はウイスキーがどんなお酒か、基本的な定義や歴史を紹介しました。
今回はその製造工程をさらに詳しく見ていきます。ウイスキーを深く知るうえで欠かせないポイントがたくさんありますので、ぜひ読みながら「こんな風に作られているんだ!」とイメージを膨らませてみてください。
1. 原料の準備と発酵

モルトウイスキーとグレーンウイスキーの原料の違い
ウイスキーには大きく分けて モルトウイスキー と グレーンウイスキー の2種類の原酒があります。
- モルトウイスキー: 大麦麦芽(モルト)のみを使用し、単式蒸溜器(ポットスチル)で蒸溜される。コクのある香ばしさや個性豊かな味わいが魅力。
- グレーンウイスキー: トウモロコシ、ライ麦、小麦などの穀物を使用し、連続式蒸溜器(カラムスチル)で大量生産される。ライトでクセの少ない味わいになりやすい。
どの穀物を使うか、どう糖化させるかによって、最終的なウイスキーの風味が大きく変わるのです。
製麦の工程(ピートの役割と影響)
モルトウイスキーに使われる大麦麦芽は、製麦(モルティング) という作業で作られます。大麦を水に浸けて発芽させ、乾燥させて酵素を含む麦芽に育てる工程です。ここで伝統的に利用される燃料が ピート(泥炭)。ピートを焚く煙で麦芽を燻(いぶ)すと、ウイスキーに独特のスモーキーな香りが加わります。
- スモーキーなウイスキーの正体: 燃やすピートが海藻を多く含む地域産だと、よりヨード香が強く出るなど、産地や焚き方次第で香りが変化。
- ピートを使わない場合: スモーキーさは控えめになり、モルトのやわらかな甘みが前面に出ます。
このピートの有無は、いわゆる「アイラモルト」のような個性的な銘柄にも大きく影響しているポイントです。
発酵プロセス(酵母の種類、発酵時間の違い)
乾燥させた麦芽を粉砕し、お湯を加えて糖化した液体を作り、そこに 酵母 を加えてアルコール発酵させると、アルコール度数7~10%ほどの「もろみ(ウォッシュ)」が完成します。
- 酵母の種類 や 発酵時間 が風味を左右する大きな要素。長めに発酵すると酸味やフルーティーな香りが増し、短時間発酵だと甘みやコクを残した酒質に仕上がります。
- 蒸溜所ごとの “秘伝の酵母” や “発酵槽の材質” によっても風味が変わるため、ここもウイスキー造りの職人技のひとつです。
2. 蒸溜(単式 vs. 連続式)
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単式蒸溜と連続式蒸溜の違い
もろみをアルコール蒸気にして濃縮する工程が 蒸溜。大きく分けて以下の2種類があります。
- 単式蒸溜(ポットスチル)
- 銅製の釜で一度に一仕込み分ずつ行う昔ながらの方法。
- 2回(アイリッシュの場合は3回)蒸溜するのが一般的。
- 風味や個性が色濃く残り、コクのあるスピリッツが生まれやすい。
- 連続式蒸溜(カラムスチル)
- 塔型の蒸溜機で、もろみを連続的に流し込み加熱。
- アルコール度数を効率的に高められ、クセの少ないクリアな原酒が得られる。
- グレーンウイスキーの多くはこの方式。
蒸溜回数が風味に与える影響
- スコットランドのモルトウイスキー は2回蒸溜が基本。適度に不純物が残り、力強い風味に仕上がります。
- アイリッシュウイスキー は3回蒸溜が伝統。さらに雑味を取り除くことで繊細でなめらかな味わいになりやすい。
- アメリカン(バーボン等) は連続式+必要に応じてポットスチルで再留するなど独自の方式を採用。トウモロコシ主体の原料と相まって、甘く力強いスピリッツになります。
3. 熟成の工程とエンジェルズシェア

樽の種類と風味への影響
蒸溜直後の原酒は、ほぼ無色透明。ここから 樽熟成 によってウイスキー特有の琥珀色や複雑な香味が生まれます。使用される樽の種類がとても重要です。
- バーボン樽 (アメリカンホワイトオーク)
- バーボンウイスキーを熟成した後の樽を再利用。
- バニラやキャラメル、蜂蜜のような甘い香りがつきやすい。
- シェリー樽 (ヨーロピアンオーク)
- スペイン産シェリー酒を育んだ樽。
- ドライフルーツのような芳醇で濃厚な香りやコクが加わる。
- ワイン樽やラム樽
- ウッドフィニッシュや追加熟成(追熟)に使うケースも多い。
- ワイン由来のベリー系の香りやラム特有の甘みを付与。
- ミズナラ樽
- 日本産のオーク。扱いが難しいが、長期熟成で伽羅(きゃら)や白檀(びゃくだん)を思わせるオリエンタルな香りが生まれる。
- ジャパニーズウイスキーの個性を語るうえでも注目の樽。
熟成環境の違い(スコットランド vs. 日本 vs. アメリカ)
- スコットランド は冷涼で湿度が高く、エンジェルズシェア(蒸発による減量)が年間2~3%程度と控えめ。その分、ゆっくりと長期熟成が進み、繊細な風味が育つ。
- アメリカ(ケンタッキー等) は夏と冬の温度差が大きく、樽の伸縮が激しいので短期間でもしっかり樽香が付く。反面、蒸発率は高く4~5%以上失うことも。早熟でも力強いウイスキーが生まれやすい。
- 日本 は四季があり、比較的高温多湿。蒸発率は2~5%程度といわれ、スコットランドとアメリカの中間的な熟成が進む。地域によって気候がかなり異なるため、同じ日本製でも大きな差が出る。
エンジェルズシェア(天使の分け前)
熟成中、樽から蒸発してしまう分のウイスキーを “エンジェルズシェア” と呼びます。年間2%なのか10%なのか、地域や環境次第で異なり、これが 熟成スピードや風味の変化 に大きく影響しているのです。
- 少ない蒸発量 → ゆっくり熟成が進み、繊細で優雅な味わい
- 大きい蒸発量 → 樽との接触が活発で、短期間でも濃厚な風味
4. 熟成後のブレンディングとボトリング

ブレンディングの技術
蒸溜と熟成を終えた原酒は、「ブレンダー」と呼ばれる熟練の調合師が組み合わせて製品に仕上げます。
- ブレンデッドウイスキー: モルト原酒とグレーン原酒を混ぜ合わせ、バランスよく調和した風味を作り出す。
- シングルモルトでも、実は同じ蒸溜所内の多様な樽をヴァッティング(混和)することで、複雑で奥行きのある味わいが生まれる。
- 最終的にアルコール度数を40~46%前後に調整して瓶詰めされるのが一般的。一部「カスクストレングス(樽出しそのまま)」の製品は加水しないまま瓶詰めされ、50~60%台の度数を誇ることも。
樽出し時のアルコール調整とろ過
- 加水: 樽出し時は度数が高い(50~65%)ため、飲みやすい度数に落とす。
- チルフィルター(冷却ろ過): 白濁を防ぎ、クリアな液色を保つために微粒子を除去。近年は風味を残すためノンチルフィルターのボトルも増加。
まとめ:知るほど楽しい、ウイスキーの奥深さ
- 原料の違い(大麦麦芽 vs. トウモロコシなど)や 製麦時のピート が、ウイスキーの風味に大きく影響する。
- 蒸溜方式(単式 or 連続式)と回数 が、香りやコクの強さを左右。
- 樽の種類(バーボン、シェリー、ワイン、ミズナラなど)や 熟成環境(湿度・温度差)が、ウイスキーの個性を決定づける。
- ブレンディング で無数の原酒を組み合わせ、さらに複雑でバランスのとれたウイスキーに仕上げる。
このように、ウイスキーはさまざまな要素が相互に絡み合ってできあがる“総合芸術”ともいえるお酒です。「ちょっとスモーキーで、シェリー樽由来の甘酸っぱさがあるウイスキーが好き」など、製法の知識をもとに自分好みの一本を見つけるのも楽しいですよ。
第3回では、世界各国のウイスキーを産地別に比較してみましょう。スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、そして日本。気候や伝統の違いがどのように味わいに反映されているのかを掘り下げていきます。
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